逃走逃走。-1-
これは遠い遠い昔にあったと伝えられる架空の御話。
本当に架空なのかは御自分で判断してくださいませ。
ある王国にそれはそれはおてんばなお姫様が居たそうな。
そのおてんば姫は、将来王国を治める存在でした。
だったのですが…
-------------------------------------------------------*
「嫌ですッ!」
ある一室から高く、そしてまだ幼い声が聞こえる。はたして10~12歳くらいだろうか。
「いいえ姫様!この見合いは絶対にしていただきます!」
それとは反対に、低く、成人した男性の声が聞こえる。
「大体、何故まだこの年齢なのに見合いなんぞするのか意味がわからない!」
「姫様!言葉にはお気をつけてくださいとあれほど…!」
「あ゛ーもう!分かってます!」
姫は大臣の言うことに反抗します。
そうして、一日の大半は大臣との口げんかで終わるのです。
何故、まだ幼いのに見合いをするのかと言うと…
先日、両親が病気にかかり、二人とも死んでしまったからです。
なので、幼い身に、一人で政治をさせるのはあまりにも不憫だと、
大人たちが他の国の王子と見合いをさせようとしているのですが。
姫はそんなこと認めません。
「こんなところに生まれたくなかった!庶民に生まれたかったのに!」
「ハァ…姫、いつかはこの王国を治め、どんなに小さくても、どんなに弱くても、姫が立派にこの国を支える時が来るということは、
姫の両親の夢が叶うのと同じなのです。亡くなった后と皇帝の為、姫はこの国を治めなければならないのです!」
必死に語る大臣をよそに、姫は窓からするすると、裏庭に下りてゆきます。
「ッ!?ひ、姫!またこんなところから…!」
「フンッ」
姫は大臣に向かったあっかんべーをすると、そのまま下町に向かって走ってゆきました。
-----------------------------------------------*
「…あれ?」
気のせいだろうか。
今、獣の耳が生えた少年が……
…ありえないか。